大阪高等裁判所 平成3年(ネ)2127号 判決 1992年1月30日
控訴人
甲野花子
同
甲野太郎
右両名法定代理人後見人
甲野善夫
右両名訴訟代理人弁護士
佐賀千惠美
被控訴人
甲野一郎
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人は、控訴人らに対し、各金五五万円ずつ及びこれに対する平成三年一一月二二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分し、その一を被控訴人、その余を控訴人らの負担とする。
三 この判決は、一項1に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 申立て
(控訴人ら)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人らに対し、各金五八八万円ずつ及びこれに対する昭和六〇年六月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第二 主張
控訴人らの主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決一枚目裏末行の「甲野」を「甲野」と改め、同二枚目裏七行目の「を」を削る。)。被控訴人は、公示送達による呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
第三 証拠<省略>
理由
一事実関係
当裁判所が認定する事実関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示一(原判決四枚目表一行目から四枚目裏末行まで)と同一であるから、これを引用する。
1 原判決中の「甲野」をすべて「甲野」と改めるほか、同四枚目表四行目の「一及び二」を「一ないし三」と改め、同五行目の「被告」の次に「(昭和一九年五月一八日生)」を、同五、六行目の「良子」の次に「(昭和一二年一〇月三〇日生)」をそれぞれ加え、同八行目の「同人らは」を「当初夫婦仲は良く、同人らは昭和五九年三月以降」と、同一一行目の「他の女性と懇ろな関係になって」を「理由は不明であるが突然」とそれぞれ改める。
2 同四枚目裏四行目冒頭に「控訴人甲野太郎は養護学級に学んでいるが、」を加え、同五行目の「生活して」の前に「二人だけで」を加え、同末行の「前趣旨」を「全趣旨」と改め、同行末尾の次に「なお甲野善夫は、被控訴人が急に所在不明になったころ被控訴人は玉姫殿のコンパニオンと同行していたことを良子が人から聞いたと言っていた旨供述するが、これは単なる伝聞であり右供述のみをもってしては、被控訴人の不貞行為があったと断定することはできない。」を加える。
二良子の慰謝料請求権
前記認定事実によれば、被控訴人と良子の夫婦関係は修復できない程度に破綻した上で両名は別居生活を継続していたものと認められるが、破綻の原因並びに夫婦のいずれに主たる責任があったのか断定することはできず、被控訴人により大きな落ち度があったことを認めるに足りる証拠はない。また、被控訴人において良子に対し婚姻費用の分担金を支払う能力があるにもかかわらず、悪意をもって仕送りをしなかったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、被控訴人の不貞行為及び良子に対する悪意の遺棄を原因とする控訴人らの慰謝料請求は失当である。
三控訴人ら固有の慰謝料請求権
1 被控訴人が昭和六〇年五月ころ出奔して以来平成二年四月五日に良子が死亡するまでの間、控訴人らは、父である被控訴人からの愛情、監護を受けることなく、母子家庭としての生活を余儀なくされたことが認められるけれども、控訴人らの養育、監護は専ら同居していた母である良子が担当していたのであって、良子との婚姻関係が破綻し別居していた被控訴人が養育、監護を施すことがなかったとしても、夫婦関係破綻につき被控訴人に主たる責任があること、また、被控訴人において養育料を支払う能力があるにもかかわらず悪意をもって仕送りをしなかったことを認めるに足りる証拠もない以上、被控訴人の右行為をもって直ちに控訴人らに対する不法行為が成立すると認定することはできない。
2 しかしながら、良子が死亡した平成二年四月五日以降は、未成年である控訴人らは生活保護を受けながら二人だけで生活し、しかも控訴人甲野太郎は養護学級に学んでいて、大阪府在住の控訴人らの伯父が後見人に選任されたものの、控訴人らは肉親による同居した上での愛情、養育、監護を受けることができず、被控訴人から放置されたままの状態にあるのであるから、被控訴人の放置行為は違法であり、被控訴人には故意又は少なくとも重大な過失があり、右放置行為は不法行為に該当するものといわざるをえない。
そして、被控訴人において養育料を支払う能力があるにもかかわらず、悪意をもって仕送りをしなかったことを認めるに足りる証拠はないこと(また養育料負担義務の不履行については別途解決を図る余地も考えられる。)、控訴人らは公的扶助を受給して十分とはいえないまでも一応生活を営んできていることの他、放置に至る経緯、期間、控訴人らの生活状況等の本件に顕れた諸般の事情を斟酌すると、被控訴人の負担すべき慰謝料の額としては、控訴人ら一人当たり各五〇万円をもって相当と認める(なお右認容額は、控訴人らの主位的請求においても、予備的請求においても同額となる。)。
3 また弁論の全趣旨に照らすと、控訴人らの固有の慰謝料請求は、被控訴人の別居以来本件口頭弁論終結時までの放置行為を一体の不法行為として捉えて損害賠償請求をしているものと解されるので、本件においては一体としての不法行為が成立した口頭弁論終結時以降遅延損害金が発生するものと解される。
四弁護士費用
控訴人らが、控訴人訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し、相当額の報酬の支払を約していることは弁論の全趣旨により明らかであるが、本件事案の難易・性質、審理経過、認容額等に鑑みると、弁護士費用は控訴人ら一人当たり各五万円が相当である。
五以上によれば、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求は、主文第一項1記載の限度において理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので棄却すべきところ、これと異なる原判決は右と異なる限度において不当であるからこれを主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官吉田秀文 裁判官鏑木重明 裁判官坂本倫城)